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標題: WED版 小說「打工吧!魔王大人」デュラハン号 主人公的番外編 連載開始 [第1話] [打印本頁]

作者: C.S.Y    時間: 2013-12-9 15:38
標題: WED版 小說「打工吧!魔王大人」デュラハン号 主人公的番外編 連載開始 [第1話]
『はたらく魔王さま!』 デュラハン号が主人公の番外編 連載開始

魔王の通勤手段である自転車デュラハン号(魔王命名)が主人公!? 魔王の愛騎デュラハン号から見た魔王と勇者の日常
(※ニコ動「電撃文庫ブロマガ」で連載開始。毎週木曜日更新。これは結末を知ってるだけに泣ける…)
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電撃文庫ブロマガ

【はたらく魔王さま!】はたらくデュラハン号 第1話 魔王、出会う2013-12-05 00:00



マイリスト

 聞こえてきた声は、『彼』の主の部下と名乗る男のものだった。
 立場的には『同僚』と呼んで差し支えないはずだが、時としてその部下は主より上位に立っていることすらあるから自分と同列には語れまい。
「もう少し計画的にお金を使ってはいかがですが」
 最早耳に馴染んでいるその声色は、かなり険しい。
「じゃあお前、俺が悪くなったもの食って腹壊してもいいって言うのか!」
『彼』の主も言葉を返すが、こちらは初手から部下に圧倒されている感が丸見えで、この時点で既に勝負の行方は決しているようなものだった。
『彼』がこのアパートにやってきて数日経つが、主とその部下は日に一度は金のことで頭を悩ませているようだった。
 今日もしばし言い争いが続いて、それをぼんやりと聞くうちに、『彼』は空模様が怪しくなってきたことに気づく。
 そろそろ主が『彼』を駆って仕事に向かう時間だ。
「お待ちください魔王様! まだ話は……」
「うっせぇうっせぇアルシエル! 説教なら帰ってから聞く!」
 その瞬間、『彼』の主が喧嘩から逃げ出すようにしてアパートから飛び出してきて、空模様に気づいてすぐにまた取って返し、古びたビニール傘を手に飛び出してきた。
 今日も慌ただしいことだ。『彼』は思うが、アパートの庭に置かれた『彼』を掴むと、主は部下の追いすがる声を無視して雄々しく叫ぶ。
「行くぞ! 我が愛騎…………!」
 そして『彼』は、今日も笹塚の町へ、主を乗せて駆け出してゆく。

 

  ※

 そもそも『外』というものを見たのは、生まれてから随分経ってからのことだった。
 彼は自分の生まれが『たいわん』という場所らしいことを仲間から聞いたことがあったが、肝心の『たいわん』の景色を、一度も見たことは無い。
 見たことがあるのは、大勢の人間と、沢山の機械と、工場の壁と、生まれた途端に己を包んだビニールシート、そして自分と全く同じ姿をした『兄弟』だけだ。
 兄弟達は基本的に自分と同じ姿形をしていた。ほんの少し体が大きかったり小さかったり、微妙に色が違ったりするが、彼にとってはあくまで誤差の範囲である。
 人間達の姿を見なくなってからというもの、彼が見たものと言えば、ビニールシート越しの兄弟達だけだった。
 彼を含めた兄弟達は、ある日一所に収められ、様々な振動を感じながら生まれた場所から遠い場所に輸送されたようだ。
 ようだ、と言うのは、相変わらず彼には自分がいる場所が分からず『外』を見ることもできなかったため、自分や兄弟達を包む箱型の壁の外がどのような状況にあるのか、皆目分からなかったからだ。
 気の遠くなるような時間の末、ある時不意に、箱が開き、見たことのない強烈な光を彼は見た。
 ビニールシート越しにも眩しいその光の中、彼は箱から『外』に運び出された。
 初めて見る空は、全く綺麗ではなかった。灰色、という色をしている。
 彼の兄弟達の中には、この空の色が少し光ったような『ホワイトシルバー』という体を持った者がいた。
 彼のすぐ隣にいたこの『ホワイトシルバー』の兄弟はとても物知りで、彼に色々なことを教えてくれた。
 曰く、自分達の体に刻印された文字は、自分達兄弟の総称であり、『デュラム』と読むらしい。
 その中で『ホワイトシルバー』の彼は、『デュラム-WS』という名だという。
 自分は『デュラム-PG』。『パステルグリーン』なのだそうだ。
 初めての空を見上げながら『デュラム-PG』はそんなことを思い出し、再び視線を落として周囲を見回すと、いつの間にか兄弟達の数が随分減っていることに気づいた。
 数百いたはずの兄弟達は十を数える程度に減っており、『デュラム-PG』は見知らぬ兄弟達と一緒に再び暗い箱に詰め込まれ、『外』から隔絶された。


 兄弟が減ったあの日から、一ヶ月が経った。
 彼は今、兄弟最後の一人として、この『ドッキ・リ・ホーテ方南町店』という大型雑貨店の、専門売り場にぽつねんと佇んでいた。
 この場所に来た兄弟達は、ランダムに現れる人間に、順繰りに引き取られていった。
 残ったのは、パステルグリーンの彼だけである。
 ここに来て『デュラム-PG』は、自分が同族の中で極めて低い地位の存在であることを自覚した。
 ここには同族は沢山いるが、ある者は自分よりも強く太い骨を持ち、ある者は自分よりも多彩な才能を発揮する腕を持ち、ある者は小さい体躯に恐ろしく複雑な関節を備えた身軽な体を持ち、その誰もが自分よりも大きい番号のプレートを首から下げていた。
 一方の自分はと言えば、この場にいる同族の中で誰よりも貧弱。自分にあって同族に無い物など一つもない。番号プレートに掲げられた数字は「6980」という誰よりも値の低いものだった。
 そんな彼のことを、同族も、そして人間達ですらもこう呼んだ。
『ウレノコリ』と。
 その言葉が意味するところは分からなかったが、良い意味を持つ言葉でないことだけは分かった。
 この空間に存在するモノは自分の同族以外にも沢山あり、その中で『ウレノコリ』と呼ばれた者達は例外なく『ショブン』されるか『ヘンピン』されてしまうことを、彼はよく理解していた。
 そして『ショブン』も『ヘンピン』も、彼にとってはそのまま『死』を意味することもまた、理解していた。
「これだけいつまで経っても売れねぇなぁ。チラシに特価で掲示してあるんだろ?」
「そりゃ特価かもしれねぇけどさ、あれだけ安いと逆に不安じゃん? 先着一名様ってことは要するに一台だけ売れ残ってるってモロバレだしさ。それにもう千円二千円出せば、ワンランク上の買えるし、俺だったら最低でもギアチェン付いてないと買う気起きねぇよ」
 イエローの衣類を纏ったこの店の人間達が、幾度となく『デュラム-PG』についてこう語るのを彼は忸怩たる思いで聞いていた。
 生まれを選ぶことなどできない!
 彼は叫ぶ。彼にとって、たった一つの意思表示はその後ろ脚から出る強烈な音だ。
『デュラム-PG』にとって、これだけは同族の誰にも負けないと自負する自分の才能だった。
「あー、もうこの後ろのディスクブレーキ、どんだけ整備しても音が消えねぇ!」
 人間がその声を聞き、悪態を吐く。
「でもこの程度じゃ不良品扱いにはできねぇし、本当売れ残るべくして売れ残ったって感じだよな」
 彼の体をいじくり回していた人間は、彼を所定の位置に戻すと少し苛立ったようにそう言って離れて行った。
 その言葉に悔しさを覚える暇すらなく、またすぐ隣にいた屈強な同族が、彼を尻目に人間に引き取られていった。
 同族にとっても、人間にとっても、自分はこの場の厄介者。
『ヤスモノ』で『ウレノコリ』。
 皆と同じ姿形をしているのに、皆が持っているほんの少しのものが無いせいで、誰にも見向きもされない。
 営業時間が終わり、人間がいなくなり、真っ暗になった店内で、彼は絶望する。
 自分には、闇を光で照らす力がある。あるはずなのに。
 光を、自分一人の力で生み出せない我が身を恨む。
 このまままた幾日も過ぎれば、遠からず彼は『ショブン』されてしまうだろう。
 彼の短い命の中で見たたった一度の光は、あのホワイトシルバーの兄弟よりもくすんだ空の光だけなのか。
「あのー、すいません」
 暗い絶望の中、いつの間にか眠ってしまっていた彼の意識を揺り起こしたのは、聞きなれない人間の声だった。
 気が付けば、再び営業時間になっていたらしい。
 この店の閉店時間は極めて短い。いつの間にか時間が進み、営業時間が始まっていたようだ。
『デュラム-PG』は憂鬱な気持ちで意識を声に向ける。
 そこには、この店に日に五十人は来そうなほど、何の特徴も無い若い男だった。
「はい、いらっしゃいませ」
 イエローの服を纏った、昨日彼に悪態を吐いた人間が、若い男の接客に立つ。
 そして次の瞬間『デュラム-PG』は、信じられない言葉を聞いた。
「このチラシの自転車って、まだありますか? このロクキュッパの」
 え?
「え?」
 彼も驚いたが、イエローの服の人間も驚いたようだ。
 それはそうだ。昨日もこの人間は彼のことを散々ウレノコリ呼ばわりしたのだから。
 まさか営業時間開始早々、彼のことを求める客が来るとは夢にも思わなかったのだろう。
「そ、その、はい、ございますが……これがそうです」
 イエローの服の人間は、彼のことを指し示し、その瞬間、若い男性客は満面の笑みを浮かべて手を打ったではないか。
「やった! まだ残ってたか!」
 これには彼も驚いた。
 最後の兄弟がこの場を去って幾日過ぎたか分からないが、どの兄弟もこれほどの笑顔で求められたことはついぞなかったと思う。
「すいません、これ下さい!」
 そしてこの男性客は、何のためらいもなく言った。
 彼が欲しいと。
「はい……あの、お客様、よろしければ店内の他のモデルも、ご覧になられた方が……千円二千円の差はありますが、もう少し多機能なモデルも沢山あります」
 折角引き取ってもらえそうなのに、とは彼も思わなかった。
 未だに自分の聞いたことが信じられなかったのだ。
 そして彼自身、自分よりもずっと優秀な同族がこの場には沢山いることを知っていたし、例えこの男性客が自分を引き取ったとしても、その後、不満を抱かれたり失望されたりするのには耐えられない。
 どうせ自分は『ウレノコリ』だ。もっといい同族を求めればいい。
 だが現実は、そんなネガティブな彼の思いの先を行った。
「いいんです。俺はこれが欲しいんです」
 男性客は、そう言いきったのだ。
 それは、彼が望んでも決して得られないだろうことと疑わなかった言葉だ。
「か、かしこまりました。でははまずお会計をあちらで……その後防犯登録を……」
 イエローの服の男は、少々気圧されつつもそれ以上は何も言わず、素直に男性客を案内し始める。
 彼は、その男性客の背から目を離せなかった。
 自分を、望んで求めてくれる者がいる。
 その言葉は、彼にとって、音ではあったが、そのまま自分の未来から差してくる光であった。


「いやー、ラッキーラッキー! ダメ元でも来てみるもんだな! 絶対売り切れてると思ってたのに!」
 一時間後。
 彼は、男性客と共に、太陽の光降り注ぐ世界に立っていた。
 空は青かった。
 兄弟達の中にいた『パステルブルー』や『マリンブルー』や『アクアオーシャン』といった連中よりも、ずっとずっと遠くて深い青だった。
 そしてその青の中に一際輝く白い太陽は、彼が今まで見た物の中で一番美しく、暖かいものだった。
「うん、サイズもぴったりだ。こりゃお買い得だったな」
 彼の『持ち主』となった男性をその背に乗せる。
 この瞬間のために、自分は生まれてきた。
 自分は初めて、自分になれた。
 彼はそう、確信する。
「光栄に思えよ。お前は俺の乗騎だ。この俺、偉大なる魔王サタンの乗騎になれる自転車なんか、そうないんだぞ?」
 主の、正直ちょっと意味不明な単語も、この際気にはならない。
 買われた店に来てから見聞きした人間達の名前と『マオウサタン』という響きはあまりにもかけ離れたものだったが、それもいい。
 自分が生まれた工場には『マオ』という名の人間はいた気がするし、店の同じ階の売り場には『ウサタン』と呼ばれる生き物を模した玩具が多くあった。
 きっと主はこの地域の出身ではなく、どこか遠くから来た人間なのだろう。
 今はただ、自分を走らせる主と、自分が走る道を得たことが、何よりの喜びだった。
「そうだ、お前に名前をつけなきゃな。俺の歴代の乗騎には全部王の乗り物に相応しい名前があったんだ」
 そして新しい彼の主であるマオ・ウサタンは唐突にそう言うと、しばらくその場で立ち尽くしたまま考え込む。
「デュラハン」
 数分経って、主は言った。
「デュラハン号。お前は、デュラハン号だ」
 彼の本来の名前は『デュラム-PG』だが、彼をどう呼ぼうがそれは主の自由である。
 デュラム、と、デュラハン。
 それほど響きもかけ離れていないし、そう呼んでくれるならばそれはそれで彼にとって喜びが増すだけだ。
「もう、クビは御免だからな」
 その小さな呟きは、彼には聞こえなかった。
 だが彼は『デュラハン号』という新たな自分の名前を己のフレームにしっかりと刻み込んだ。
 彼は、新たな主の照らす光の下で生まれ変わった。
「よし、行くぞ!!」
 そして今、主の力を己の足に受けて、生まれて初めて道を走……。


「お、おっ? い、意外と難し……あ、あああおあっ!?」


 彼の偉大なる主マオ・ウサタンは、大人用二輪自転車である『デュラハン号』を制御できず、十メートルも進まないうちにバランスを崩して豪快に横転したのだった。

  ※

「マオウ様! 今度は何ですか! 冷蔵庫と洗濯機を同時購入しただけでも我が家の家計はカツカツだというのに、一体どこから自転車なぞ!」
「いいだろそれくらい! 一番安いのだったんだぞ! ロクキュッパだロクキュッパ!」
「ロクキュッパ!? ロクキュッパということはつまり七千円ではありませんか!!」
「細かい事ガタガタ言うなよ! 少しは行動半径広げようぜ! アシヤも買い物とかに使えばいいじゃねぇか。重い買い物袋とか持ち歩くのしんどいだろ」
「体の負担になるほどの重さの買い物ができる状況とお思いですか! 第一ですねマオウ様!」
「なんだよ!」
「マオウ様は自転車に乗れるのですか!? 少なくともこれまで、私の見ている範囲では乗ったことはございませんよね!?」
「お、お、お前、あんまり俺のことバカにすんなよ! の、乗れるに決まってんだろ! 俺を誰だと思ってんだ! マオウだぞ! マカイノオウだぞ! マオウが自転車に乗れないとか、あ、あるわけねぇだろ!」
 彼は、漏れ聞こえる、というには余りにはっきりと聞こえる言い争いをげんなりした思いで聞いていた。
 彼にもし呼吸器官があったならば、大きな溜息をついているところだ。
 言い争いを聞くに名前をマオ・ウサタンではなく『マオウ』というらしい主の男。
 自分を買ってくれたことには、もちろん感謝している。しているのだが、困ったことに、マオウは自転車に乗ったことがないらしい。
 デュラム-PG改めデュラハン号の車輪径は26インチ。
 自分の大きさの自転車を購入する人間は、既に自転車の扱い方を心得ているという大前提を信じて疑わなかったデュラハン号にとって、これは衝撃の展開だった。
 マオウはデュラハン号の新たなる住処であるこの木造アパート、ヴィラ・ローザ笹塚に到着するまでに、実に十回以上も歩道で転倒している。
 もちろんそれだけデュラハン号の真新しいボディには細かい傷がついてしまった。
 成人男性に有り得べからざる下手くそな乗り方に、購入されて早々足がパンクしてしまうのではないかと肝を冷やしたデュラハン号だが、
「とにかくだ! もうデュラハン号は俺の愛騎なんだ! 何言われようと絶対手放さねぇからな!!」
 どんなに乗り方が下手くそであっても、そう言ってくれる主を見限ることなど、できるはずがない。
「ではマオウ様! せめて自転車の練習はアスファルトの道路ではなく、裏庭の柔らかい土の上でなさってくださいね! 購入早々破損させては大変ですから」
「な、だ、だから乗れるって言ってんだろ! れ、練習とかいらね……」
「アパートの前で転倒した派手な音を聞き逃す私とお思いですか?」
「き、汚ねぇぞ!! 知っててカマかけやがったな!?」
「つまらぬ意地を張る魔王様が悪いのです。どうせここまで何度も転倒されたのでしょう。そうなっては傷だらけで今更返品などできはしないでしょうし、折角買ったのですから、大事に使うのですよ」
「お前は俺のお袋か!!」
 この少々不思議で、抜けたところのある主と、主の同居人らしき男を乗せて、命ある限りこの街を走って見せようではないか。
 デュラハン号は、光る空を見上げて、決心する。
 遠い彼方の生まれ故郷も、兄弟達も、もう二度と見ることはないだろうが。
 この新たな空の下、精一杯走ろう。
 この笹塚という街の、自分が走るべき、新たな道を。

 ※

「よかったら、これ」
「え?」
 今となっては自由に自分を操れるようになった主、真奥貞夫がその女に出会ったのは、その日の出勤途中だった。
 突然の雨に降られて困っている、長い髪の美しい女だった。
 散々金がないと大騒ぎしているのに、格好をつけて女に傘を渡してしまって、結局全身濡れながら主の勤め先に到着した。
 息を切らせて勤め先、マグロナルド幡ヶ谷駅前店へと入ってゆく主の背を見送るデュラハン号が、主と、主を取り巻く真実に直面するのは、この日の夜のことである。

 

<つづく>


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※『はたらく魔王さま! ニコニコ特別編 第一話』は12月26日00:00で公開終了となります。





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